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六日町簡易裁判所 昭和37年(ろ)7号 判決 1963年1月08日

被告人 坂大敏彦

昭一六・二・二五生 建具職

主文

被告人は無罪

理由

本件公訴事実は、被告人は、昭和三十七年七月二十四日午後十時四十五分ころ、新潟県北魚沼郡小出町大字小出島五百四十番地附近道路において、第二種原動機付自転車を運転するに際し、運転操作にさまたげとなるようなぞうりを用いて運転進行したものであるというのである。そうして被告人が前記日時ころ、前記場所において、第二種原動機付自転車を運転するに際し、俗に雪駄ぞうりと称する履物を用いて運転したことは、被告人の当公判廷において該ぞうりが運転操作にさまたげとなるような履物ではなかつたと弁解した外、前判示と同趣旨の供述及び司法巡査の犯罪事実現認報告書の記載並びに押収のぞうり一足(昭和三十七年押第五号の証第一号)等によつて、これを認めることができる。

そこで被告人の犯意の点につき考えてみるに、起訴状記載の罰条である新潟県道路交通法施行細則第十六条第一項第二号の規定によれば「自動車等の運転操作にさまたげとなるような下駄等の履物を用いて運転してはならない」と定めてあるから、右規定は一般に使用される履物のうちで、自動車等の運転操作には最も不適当な履物である下駄を例示したものであつて、その他これに類する履物の使用をも禁止する趣旨であること明らかである。従つて足駄は固より、脱げ易いサンダルとかスリツパ又はツツカケと称する種類の履物も、その形状、性能からして、自動車の運転操作にさまたげとなるような履物に当るものと解するのが相当である。ところがぞうりは右に掲げた履物と異り、底が比較的平らであり柔軟性もあつて足に密着し、鼻緒の先を足指の間に挾んで履くものであるから、下駄サンダル等の履物に比べれば、特に自動車等の運転操作にさまたげとなるような履物であるとは考えられない。しかも被告人は実際使用してみて、ゴム長靴と運転操作上差異を感じなかつたと供述して居るのである。もつとも当公判廷における証人中村幸作及び池田秀之助の各証言によれば、被告人の使用して居た種類のぞうりも、前記規則にいわゆる自動車等の運転操作にさまたげとなる履物の部類に属するものであつて、最も適当な履物としてはゴム底の運動靴であるというのである。しかし実際に当つていずれの履物が自動車等の運転操作にさまたげとなる履物に該当するかは畢竟その使用上の便不便の程度の差によつて判断せざるを得ないことになるわけであるから、もしぞうりも自動車等の運転に使用することを禁止して取締る必要あるものならば、その旨を明らかに規定し、国民をして適帰するところを知らせるだけの注意をするのが当然であるのに、単に「下駄等の履物」と規定したのは、該規則制定の当時ぞうりが別段問題とならなかつたためであることも前記中村幸作の証言によつて認められる。果してそうだとすれば、法規に明らかな規定なく、しかも実際上自動車等の運転操作に左程支障を感じないぞうりを使用した者に対し、刑罰の制裁をもつて臨むことは決してその当を得たものということはできない。それ故本件被告人の使用したぞうりが、前記規則にいわゆる自動車等の運転操作にさまたげとなるような履物に該当するとしても、被告人は該ぞうりが同規則により使用を禁止された履物であることの認識を欠いたものというべきであるから、結局犯意を阻却するものとしてその行為を不問に付するのが相当である(大正十四年六月九日大審院第一刑事部判決、判例集第四巻三七九頁以下参照)と認め、本件は犯罪の証明ないものとして刑事訴訟法第三百三十六条に従い主文のように判決する。

(裁判官 坪谷雄平)

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